落とし物や拾い物、相談などをするために、駅の近くの交番や自宅近くの交番に入ったことがある方はいるかと思います。しかし交番に何度も足を運ぶ人や、いくつもの交番をハシゴして回る人は少ないでしょう。

警察官になると自分の所属する警察署管内の交番に一度は足を運ぶことになるため、複数の交番の中に入ることになります。そして、いくつもの交番を回っていると、どの交番に行っても交番内のレイアウトが似ていることに気付きます。

たいていは下図のような配置、レイアウトになっています。

今回はこの交番の執務室内のレイアウトの意味についてご説明します。

交番は不審者に備えた要塞設計

交番には拾得物の届け出や近隣トラブルの相談、駐車標章の持ち込み(駐車違反の出頭)、道を尋ねる人(地理教示)など様々な方が訪問します。

基本的には善良な市民が訪問するのですが、なかには警察官が腰にぶら下げているけん銃を奪う目的で訪れるような者もいるため、実は交番はかなり危険な場所でもあります。そのため交番では刃物を持った不審者がいつ来ても対処できるよう、机や椅子といった物を置く配置(レイアウト)でさりげなく防犯対策を行っています。

対策1:警察官用の椅子はキャスター付き、訪問者用はパイプ椅子

1つ目の対策は、椅子の種類です。

交番内の椅子をよく見ると、警察官用の椅子は脚にキャスターの付いた椅子で、訪問者が座る方の椅子はパイプ椅子が使われています。

これは訪問者と話している最中などに突然ナイフや包丁で襲い掛かられたときでも、机を押すようにしたり足で床を蹴るようにすれば即座に相手との間合いを確保できるからです。

もしも警察官側の椅子にパイプ椅子が使われていたら、間合いを取るために後ろに下がろうとした際、床との摩擦でうまく後ろに下がれなかったり、最悪の場合はつまづいて後ろに転んでしまったりします。これでは格好の的です。

反対に、訪問者にはパイプ椅子に座ってもらうことで立ち上がりにくくさせ、警察官を襲いにくいようにしています。

対策2:警察官側の空間は広く、訪問者側の空間は狭い(机の位置)

椅子の後ろ側の空間の広さにも対策が施されています。

対策1でも述べたように、警察官はいつ襲撃されるかわかりません。そのため、襲撃された際でも広い場所で戦えるよう、警察官側の空間を広めに確保してあります。

防御するにしてもこちらから反撃するにしても、力を発揮するためには体を十分に動かせるだけの空間が必要です。そのため机の位置は訪問者側に寄せておき、警察官側の空間が広めになるよう配慮されています。

 

反対に、訪問者側の空間は狭いです。

拾得物の届け出などで交番に行ったことがある方なら経験があるかと思いますが、椅子に座るのも一苦労します。

椅子の後ろ側には人一人がやっと通れるくらいの隙間しか空いていないので、立ち上がりにくく、警察官を襲撃しようと思っても素早く動くことができません。

対策3:不必要な物は一切置かない

基本的なことではありますが、不要なものは一切置かないようにもしています。

たとえば『ゴミ箱』。

警察官が休憩する交番のもっと奥の部屋に入ればゴミ箱は置いてありますが、市民と接する執務室内には置かれていません。ゴミ箱のようなものがあると不審物(爆弾、毒物など)を設置されるおそれがありますので、ゴミ箱は置かないようにしています。

参考:交番での硫化水素発生事件で容疑者逮捕/神奈川県警

 

その他、交番の机の上にも基本的には物を置いておきませんし、机の引き出しの中にも地図くらいしか入っていません。鉛筆1本ありません。

なぜここまで徹底して物を置かないようにしているのかというと、精神錯乱者や薬物使用者、さらには警察官を狙った不審者などが手に取って武器にしてしまう危険性があるからです。

映画『ニキータ』の冒頭には、警察に捕まった不良少女のヒロインが、調書に署名しようと手にとった鉛筆で警察官の手をぶっ刺して血まみれにするというシーンがあります。あれは映画の中だけと思われがちですが現場ではわりと頻繁にあることなので、警察官が身を守るためにも不要なものは一切置かないようにしています。

対策4:刺股(さすまた)、盾をすぐ出せる位置に準備

交番奥へと続くドアの陰にもイザという時のために、道具が隠されています。

訪問者からは見えない位置に、刺股警杖といった制圧用の用具が置かれています。

交番内に不審者が入ってきたときだけではなく交番の近くで不審者が暴れているといった通報があった際、すぐに持ち運べるようにするための備えでもありますが、不審者に襲われても簡単にヤラレないようにするための準備をしているわけです。

対策5:防犯カメラ

不審者に襲撃されたとき、その場で制圧できれば良いのですが残念ながら取り逃がしてしまうこともありえます。そういった場合に備え、後の捜査に役立てる目的で交番内には防犯カメラ(監視カメラ)が設置されています。

ほとんど使う機会はないのですが、ごくたまに防犯カメラが活躍することもあります。

交番内部の防犯対策まとめ

以上のように、交番は不審者に襲撃されるリスクがあるため

  • 警察官用の椅子はキャスター付き、訪問者用はパイプ椅子
  • 警察官側の空間は広く、訪問者側の空間は狭い(机の位置)
  • 不必要な物は一切置かない
  • 刺股(さすまた)、盾をすぐ出せる位置に準備
  • 防犯カメラ

さりげなく対策をとっています。

平成初期に発生した警察官による不祥事のオンパレードにより、警察では『市民に開かれた警察組織』をアピールしています。そのためあまり物々しく対策を取ることができないのですが、見えない部分、気付かれにくい部分では不審者対策をしていますので、交番を訪れた際にはチェックしてみてください。

また、今回ご紹介した”さりげない不審者対策”は、交番だけでなく警察署でも実施されています。市民が立ち入れる場所には基本的には物を置きませんし、警察官用の椅子にはキャスターが付いていたりします。

これらの対策は警察機関だけではなく市役所や裁判所、弁護士事務所などヤバい人や頭のおかしい人が訪問する可能性の高い場所では有効だと考えられますので、不審者が来る可能性の高い場所で働いている方は今回ご紹介したテクニックを職場で採用してみてはいかがでしょうか?

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