世の中では毎日様々な犯罪が行われ、日々新たな犯罪も生まれています。
今回はそんな数ある犯罪の中でも最も古くから存在し、そして最も数多く発生している『窃盗犯罪(泥棒)』について小話をしてみたいと思います。
窃盗犯のターゲットにはブームがある
泥棒の話をする前に、少しだけビジネスの話をしておきたいと思います。
企業や個人事業主、さらには個人が副業などで行っているビジネスには流行り廃り(ブーム)があり、ブームが訪れている間はその波に乗ってボロ儲けすることができ、ブームが去るとあまり稼げなくなります。バブルに沸いた80年代後半には不動産取引(ビジネス)や株取引が儲けやすかったですし、不況の前に来るといわれる「タピオカブーム」なんかも時代の波に乗れれば素人でもそれなりに稼げました。
こういったブームは泥棒業界にも存在し、犯行に及ぶ際の『手法』や狙う対象(ターゲット)にはブームがあります。そしてブームに合わせて犯行手口や狙う対象を変え、その時々において稼ぎやすい手法、対象で犯行を重ねていきます。
窃盗事件のブームの例
私が見てきた事例に限りますが、いくつか例を見てみましょう。
精算機荒らし
現在は対策が取られてしまいほとんど発生しませんが、一時期、ガソリンスタンドの精算機やコインパーキングの精算機を狙った『精算機荒らし』が流行しました。
セルフ式の給油施設では、ガソリンを給油した後で機械に現金を投入して釣銭を受け取る【精算機】があります。セルフスタンドでは基本的に店員が不在ですし、とくに夜間は完全に無人になるスタンドもありますので、狙いやすい時間帯を狙ってバールなどで精算機を破壊し、中にある現金を強奪していきます。
精算機をバールで破壊するだけという非常に”お手軽”な犯行のため、同じ地域で2~3カ月間、スタンドを変えながら似たような事件が相次いで発生したことがあります。中には何度も被害に遭うスタンドもありました。
ガソリンスタンドを経営する会社も保険会社と契約して強盗に遭った際には被害が補填されるようになっていますので、何回被害に遭っても特に対策をすることもなく、被害は毎回保険金でまかなっていたようです。
同様の手口はコインパーキングでも発生しており、ガソリンスタンドの被害が減ってきたと思えば今度はコインパーキングが狙われて…ということがありました。
なお、現在はクレジットカードでの支払いや前払い式の専用カードでの決済、スマホ画面に表示させたQRコードやバーコードでの決済が主流になっており、精算機荒らしは激減しています。ブームが去ったということですね。
牛丼屋強盗
深夜営業の飲食店では、客が少なくなる深夜の時間帯には従業員が一人で店を回していることがあります。いわゆるワンオペというやつです。
このワンオペの時間帯を狙って包丁を持った犯人が強盗に押し入り、レジや金庫にある現金を強奪する手口も流行りました。とくに吉野家、松屋、すき屋といった牛丼店での被害が相次いで発生しましたので、通称『牛丼屋強盗』などと呼ばれています。
こちらも覆面をして包丁を持っていけば犯行が実現できる”お手軽”な犯罪だったため、防犯カメラや2名以上での対応など対策が取られるまでしばらくの間ブームが続きました。
警察が何度指導しても深夜のワンオペを頑なに拒否し続け、何度も被害にあっていた某県・国道16号沿いの吉野家には骨を折らされたなあ…。従業員の安全よりも人件費カットのために深夜ワンオペを続ける、営利企業の闇を思い知りました。
なお、牛丼屋強盗の手口は深夜営業する弁当屋でも発生しており、夜間の営業は強盗被害に遭うリスクを考えたうえで営業してもらいたいものです。どうせ被害に遭っても金銭的な被害は保険金で賄われるんでしょうけど、被害に遭った時に運悪くシフトに入っていた従業員の精神的な被害までは補償できませんからね。刃物にトラウマを持ったり尖端恐怖症になったりしたら可哀そうです。
ひったくり
ある時期にはひったくり事件、それもスクーターに2人乗りしてのひったくり事件がブームになったこともあります。
一般的なひったくりの犯行手口は、バッグを持った人の背後から近づき、持っているバッグを強奪して走って逃げます。たいした準備が必要なく、思い付いたらその場で犯行に及べてしまう古典的な手口ではありますが、被害者よりも犯人の方が走るスピードが速ければ逃げ切れるという、これまた”お手軽”な手法です。
バイクに2人乗りをするひったくりでは、「バイクの運転係」と「強奪係」に役割分担して犯行に及びます。
バイクを使うため逃げ足に自信が無くても犯行に及ぶことができ、被害者が110番したあとで警察の緊急配備が完了するよりも前に、緊急配備の範囲外へ逃げることが可能です。
運転係と強奪係に役割分担したことで、逃走中でもバッグの中身を漁って金目のものだけ抜き取り、バッグなど目立つ被害品は走行中に捨てることもできます。これなら万が一逃走中に警察官に職質されたとしても、多額の現金を持っていただけでは逮捕されません。防犯カメラの画像や被害者・目撃者の証言が集まるまでは容疑不十分で野放しになりますので、さらに犯行を重ねることができます。
乗り物を使うことで犯人側は体力的に余裕ができるため、ひどいときには同じ道路沿いで連続してひったくりが発生したこともありました。
ひったくりについては
- 多発地帯での防犯カメラの設置
- 市民への防犯活動の実施
- 容疑者の行動確認(24時間のカメラでの監視)と逮捕
などでかなり減りました。
とくに市民への防犯活動では、
- バッグを持つときは道路と反対側に持つ(バイクの使用有無にかかわらず、犯人は道路の広い場所を走って逃げる。壁側や狭い場所を通ってまで犯行に及ばない)
- できるだけ道路の右側を歩く(バイクに乗って一人で犯行に及ぶ場合、バイクのアクセルは右側にあるため手が離せない。バイクの運転中は左手しか自由に使えないため)
- 人気のない場所ではときどき後ろを振り返りながら歩く(犯人が後ろから近づく理由は「顔を見られたくないから」)
でひったくりが激減しています。
ブームの終わり=対策の整備
以上のように、窃盗犯の手口や対象にはブームがあります。
基本的には「まだ対策が取られていない」「手軽にできる犯罪」が頻発し、警察が対策を取り始めると下火になります。
警察の対策は常に後手に回りますので、普段から犯罪の被害に遭わないよう「自分の身は自分で守る」ように気を付けたいですね!
とっても役に立ちました。特に公営団地とコンビニの話し、それと目の動きと手を見ること。
話変わります。 時々ニュースで見るのですが小さな事故、事件に見えるのですが警察官がなんじゆう人も集まる様子よく見ます。こんなので三十人、四十人。
これって非効率で無駄のような気がします。民間では四、五人で済むような気がしますが。その辺り知りたいです。
日野さん、コメントありがとうございます。とても励みになります。
ご質問いただいた小さな事件・事故でも警察官がたくさん動員される理由ですが、犯罪の証拠や事故の原因究明につながる痕跡をなるべく早く確保するためです。
事故や事件の証拠の確保は時間との勝負です。発生からできるだけ早い段階で大量の人員を投入することで、目撃証言や事故の痕跡などをたくさん集めることができます。
また、ニュースになっているということはそれだけ社会的な注目度の高い事件・事故ということでもありますので、警察の威信にかけても早期解決が急務となります。このような事情から、一見すると小さな事件・事故であったとしてもたくさんの警察官が動員されるのです。
事件・事故の発生から数日が経過してからは規模が縮小され、聞き込みや証拠の収集を担当する警察官の数も減らされますが、発生直後にはできるだけたくさんの人手が必要になります。