犯罪は人が起こすものである以上、犯罪者によってその手口が異なります。

一見同じように見える事件でも、犯人によって細かい部分が微妙に異なるのです。

犯罪を実行する際の犯人の「手口」や「癖」を元に捜査する手法を【手口捜査】といいます。

窃盗犯(空き巣)の手口の例

事件解決のために手口捜査がよく用いられているのは、窃盗犯罪です。

窃盗犯罪は日本の刑事事件のうち約7割を占めるほど発生数が多く、一度逮捕されて刑務所に入っても7年程度で出所できるため再犯率も高いです。そのため犯罪者の手口のデータを集めやすく、捜査に活用されています。

 

窃盗犯の手口や癖の例は、たとえば空き巣の場合であれば以下のようなものです。

「犯行時は民家の1階にある人目に付かない場所の窓をガスバーナーで焼き切り土足のまま侵入する。」

「侵入後、靴を脱いでから物色を開始する」

「侵入の手口は、窓ガラスをドライバーでこじ開けるように割る方法である」

「盗みを働いた後は必ずトイレで用を足していく。水は流さない」

「侵入時、室内にある食べものを食べていく」

「物色方法は”家の中を引っかき回すように”グチャグチャにしていく」

「物色時はなるべく散らかさず、窃盗の事実がバレないように盗む」

「一軒家は狙わず、マンションや集合住宅の留守宅だけを狙う。侵入方法は玄関のカギをピッキングで開ける」

「マンションへの侵入方法は、屋上からロープを使いベランダから侵入する」

「休日しか盗みの仕事をしない」

「盗みは平日の昼間にしか行わない」

 

ざっと挙げただけでも色々な種類がありますね。

犯人によって侵入の手口や狙う対象、侵入後の行動が十人十色です。

窃盗の手口や犯人の癖をデータ化していくことによって、はっきりとした証拠が無かったとしても別の場所で発生した窃盗事件の犯人が同一人物であると結論付けることができます(余罪の追及)。

手口捜査の例

自分の受け持ち管内で窃盗事件(空き巣)が発生した際、過去に同一の手口で窃みを働いた者がいないか調べ、犯人の目星を付けることもできます。

たとえば

  • 犯罪の発生日時は平日の昼間
  • 狙われるのは住宅街の一軒家
  • 侵入の手口は窓ガラスをドライバーでこじって割るもの
  • 侵入後は土足のまま室内を物色し、現金や高価なゲームソフトを盗む。宝飾品には手を付けないし金庫があっても開けようとはしない
  • 物色後は玄関のドアから出ていく
  • 犯行時、指紋が残らないように軍手をはめている
  • 靴はスニーカーもしくは運動靴

といった事件が発生したとします。

 

この場合、テータベースに手口を入力し、同じような犯行手口を行う者がすでに逮捕されていないかをまず調べます。

検索後、似た手口の者が最近刑務所を出所しており、すぐ隣の警察署管内に住んでいることがわかれば、その人物が犯人の可能性が高いと判断して行動の確認に移ります。行動の確認方法は、家の近くに監視カメラを設置して出入りを確認し、犯人が家にいない時間帯に近所で窃盗事件が発生していないか調べたり、尾行したりして確認します。

ある程度確認が取れたら犯行直後の犯人を職質して緊急逮捕したり、盗んだ品物の販売履歴から証拠を集め通常逮捕したりします。

このように、犯人の犯行手口を元にした捜査手法は有効です。

爆弾魔や殺人事件にも手口捜査が使える

手口捜査は空き巣以外の他の窃盗事件(車上狙い、事務所荒らし…など)にも使えます。また窃盗以外の事件、たとえば詐欺事件や、発生頻度は少ないですが殺人や爆発物を使った事件にも応用できます。

 

よく刑事ドラマでは爆弾魔の使う爆薬の種類や爆発物の作り方、犯行場所の特徴などから同一犯による犯行として捜査をしたり、殺人事件における凶器の種類や”殺しの手口”から同一犯として断定して捜査するシーンがあります。あれも手口捜査の1つです。

ただし爆弾事件や殺人事件は窃盗犯罪ほど多くは発生しませんし、重要事件なので事件の解決も早いです。また一度犯人が逮捕されると長期間刑務所の中で過ごすことになるため、再犯の機会が少なく、手口捜査を使う機会も少なくなります。

手口捜査はプロファイリングに似ている

手口捜査は心理学的なアプローチから犯人を割り出す「プロファイリング」に似ています。

プロファイリングは犯行の手口や犯人の行動を元に、犯罪者の性別や職業、年齢、生活環境などを推定して犯人に辿り着きますが、手口捜査ではあくまでも犯罪者の”癖”にこだわり、主に同一事件の余罪追及に活用しています。

プロファイリングが新たな事件の発生”前”に犯人に辿り着こうとしているのに対し、手口捜査は新たな事件を防ぐのには向いていない点が違います。

まとめ

以上のように手口捜査は、癖や手口など簡単には変えられない”人間の習性”に基づいた捜査手法です。

アナログですが意外と効果があるので、今後も活用されていくことでしょう。