本物の「偽造免許証」や本物の「偽札」を見たことはありますか?

ニセモノなのかホンモノなのか、ややこしくて分かりづらい表現になってしまってすみません。

偽造免許証も偽札も、普通の生活をしていると一生巡り合えないようなレアアイテムです。しかし、警察官をしていればこんなレアアイテムにお目にかかれることがあります。

今回は偽造免許証(偽造した運転免許証)や偽札について、私が遭遇した事案についてご紹介します。

偽造免許証は存在するし、偽札も存在する

偽造免許証も偽札も、普通はお目にかかれません。しかしこれらの偽造品を作る人はいますし、使用する人もいます。

偽造免許証を提示し、バレたら逃走する交通違反者

たとえば偽造された運転免許証

交通違反をした際や身分証明書の提示を求められたとき、偽の身分証があれば色々と都合がいいです。特に悪いことを企てている人や脛に傷のある方にとって、偽の身分証は重宝されます。

私が見つけた事例では、交通違反をした車を停止させ運転手に免許証を提示するよう求めたとき、偽造免許証を渡されたことがあります。危うく騙されるところだったのですが、渡された免許証は帯状に色がついている部分(有効期限が記載されている部分)のインクが滲んでおり、背景色も黄色っぽくて少し変でした。

反則切符を作成するために免許証を預かったあと、念のため免許証番号で本署に照会しましたが登録者情報が誰もヒットせず。これはおかしいと思い違反者に質問したところ、「それはあげる」「いらない」などと訳の分からないことを言いながら車で走り去ってしまいました。

結局その時はメモしていた車のナンバーから所有者を割り出し、捜査をして違反者を探し出したのですが、ナンバープレートまで偽物だった場合には犯人までたどり着けなかったかもしれません。

免許証は身分証として広く使われていますが、一般的には偽物なのかホンモノなのかをその場で調べることはできません。警察官がやるように免許証の番号などから真贋を調べることができればいいのですが、個人情報の関係上、そういったことは普通はできません。

しかし、悪いことを考えている人は偽造した免許証や身分証を使っていることがありますので、仕事や取引で相手の身分証を確認しなければならない方は注意が必要です。滅多にありませんが偽造した身分証を使用する人は実在します。そしてそんなことをする相手が、まともな人間であるはずがありません。

深夜のタクシー代に偽千円札

偽札も製造・使用されています。

偽札といえば1万円札のように金額の大きなお札が偽造のターゲットになりがちです。少額の請求に対して金額の大きな紙幣で支払いをすれば、お釣りとして本物のお金をたくさん入手できるからです。しかし、私が出会った偽札は千円札でした。

その当時私は交番勤務をしていたのですが、ほとんどの警察官は深夜に一度警察署に戻ってその日の”実績”の集計を行います。補導表や交通反則切符、被害届などを署に集めておくことで、幹部が書類の間違いを探して訂正を指示したり、仕事量の少ない部下に檄を飛ばしたりできるからです。翌朝の交代時に書類の訂正をするのは時間的にも体力的にも厳しいため、夜中の時間があるタイミングでやっておくんですね。

その日も私は警察署で実績の集計をしていたのですが、タクシーの運転手さんが訪ねてきました。運転手さんによると、支払いの際に乗客から渡された千円札が偽札だったことに後から気づき、すぐ近くだったので警察署まで届け出たとのことでした。

そのお札を確認すると、客から渡されたという3枚の千円札はどれも番号が一緒で、透かしもなく、紙質も本物の千円札より少し硬いものでした。タクシーの運転手さんは仕事中に手袋を付けていたため、手触りで偽札だと気づくことができず、また、車内は薄暗かったため色合いや透かしの有無で偽札だと気付くこともできなかったようです。

ありがたいことに犯人の乗車場所と下車した場所は運転手さんが記録していたため、後日、刑事課の方が周辺の防犯カメラをもとに捜査して犯人を捕まえることができました。偽札作りなんてマンガやドラマの中だけだと思っていましたが、実際に偽札を作って使用し、捕まる人がいるということに驚いたものです。

最近の家庭用プリンターは犯罪を防ぐためにお金の印刷をブロックする機能が標準搭載されていますが、そのブロックを解除する知識があったりプリンターを改造する技術があれば案外簡単に偽札は作れるし、タクシーのように条件させ整えば偽札を使っても意外とその場ではバレないものなんだという事実にも驚きました。

偽造免許証や偽札の製造場所

こういった偽造免許証や偽札ですが、いったいどこで作っているのでしょうか。

私が遭遇した偽造免許証については、犯人が自宅で製造していました。あまり出来の良くない作品でしたので(といっても私は騙されそうでしたが…)、大掛かりな機械や特殊な装置も必要なく、個人宅でこじんまりと作っていたようです。

偽札については、ちょっと意外な場所で作っていたことが捜査の過程で判明しました。個人の家ではなく、かといって工場のような大掛かりな製造場所でもなく、ビジネス街にあるホテルの一室で作られていたからです。街中で大胆に、そしてひっそりと犯罪が行われていたことを知り、私たちが見ている町の治安なんてものは見せかけにすぎず、裏ではけっこう大変なことになっているんだと驚愕しました。

でもホテルって意外と犯行に使いやすいんですよね。

警察官が犯罪者の滞在有無を調べるためにホテルの一室に入ったり、通報や具体的な証拠もないままホテルの一室に入ることはできません。これはホテルの従業員も同じで、ベッドメイクや清掃目的だとしても、基本的には客からの依頼がない限り入室することはありません。つまり、ホテルというのは密室で作業したいことがある犯罪者にとって、とても都合の良い環境なんです。

先ほどの偽札犯の部屋には、捜査員が令状を持って踏み込んだ時、改造したプリンターやインク類、印刷用の紙、偽札のサンプルが部屋中に散乱していたそうです。一目で偽札作りの現場だと判断できたそうですが、そもそも人目に触れることがなければ誰にも気付かれず、犯行を続けることができます。

最近は外国人観光客の減少やテレワーク普及などの理由から、ホテルが長期滞在プランを積極的に売り出すようになりました。長期滞在者が全員怪しいというわけではありませんが、犯罪の現場にならないよう事業者側にも注意を払っていただきたいですね。

偽札作りの現場はどのようにして発見されるのか?

偽札が使用された際、防犯カメラでその偽札を使用した人の足取りを調べて滞在先を特定したり、タレコミ(情報提供)で製造場所を特定したりするのはよくあることです。こういった捜査活動で偽札作りの現場を見つけるのが普通なのですが、それ以外の方法で発見されることもあります。

私が遭遇したホテルで偽札作りをしていた事件ですが、犯人を検挙したあと、実は消防の設備点検をした際に怪しい客がいたということで、ホテル関係者や点検係員の間で噂になっていたことがわかりました。

消防の設備点検では客室内の煙探知機が機能しているか調べるため、客が不在の時間帯でも室内に入ることがあります。通常だと、客が希望しない限りはホテルの従業員でも室内に立ち入ることはありませんが、消防設備の点検であればたとえ客が不在だったとしても、ホテルの従業員立ち合いのもと客室に入ることがあります。

在室している場合でも、消防設備の点検であれば客も断ることはできません。合理的な理由がないですからね。偽札犯もシーツや服で機材を覆い隠したりするでしょうが、室内の状況が明らかに一般のお客さんとは異なるため、不審に思った点検係の人や一緒に立ち会ったホテル従業員は怪しいと気付けます。

この事例では通報はしてもらっていませんでしたが、犯人検挙後のホテル関係者への事情聴取などで「やっぱり…」という話になりました。警察と関わり合いになるのが嫌という気持ちがあったり、客と従業員という立場上むずかしい部分もあると思いますが、怪しい客がいて犯罪が行われている可能性がある!という場合には、ぜひ積極的に通報してもらえたらな…と思います。警察なら宿泊名簿の情報から客の過去の犯罪歴を調べることもできますので(調べた結果は個人情報なので教えてもらえない)秘密裏に捜査を進めることもできます。110番通報ではなく地元の警察署への”相談”だけでもしてもらえたら犯罪者が減ってより良い社会になるんじゃないかと思います。

まとめ

以上のように、偽造免許証(偽造身分証)や偽札は実在しますし、偽札を使われて被害にあう方もいます。

意外と身近に潜んでいる犯罪ですので、現金を受け取るときや身分証を確認する際には気を付けましょう。

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